【新常識】住宅ローン「50年返済」時代の到来:なぜ若者は長期ローンを選ぶのか?
導入:住宅ローンの常識が変わりゆく時代
近年、日本の住宅市場において、住宅ローンの返済期間に関する「常識」が大きな変化を見せています。かつては最長35年が一般的でしたが、現在、返済期間が50年のローンが徐々に人気を集めています。この「50年ローン」は、特に住宅取得に意欲的な若年層の間で広がりを見せており、金融機関やハウスメーカーもこの新しい流れに対応を迫られています。

背景には、建築コストの高騰と住宅価格の上昇があります。この状況下で、住宅購入希望者は「総返済額」よりも「毎月の支払いをいかに抑えるか」を重視する傾向を強めており、従来の35年返済の枠組みでは対応しきれない状況が生まれています。住宅ローンが「35年返済の時代ではなくなってきた」という声も聞かれ、「35年返済は終焉に向かうのか」という議論が巻き起こっています。
止まらない住宅価格の高騰:50年ローンの出現要因
住宅ローンの長期化が進む最も大きな要因は、新築戸建ての価格高騰です。
建築資材の高騰に加え、金利上昇の動きも見られ、マイホーム取得のハードルは上がり続けています。北海道の具体的なデータを見てみると、新築戸建ての平均価格(土地含む)は、2017年の2738万円から上昇し、2025年には3647万円に達しています。これは、2017年の統計開始以降の最高額を25期連続で更新し続けている状況です。わずか8年間で909万円も価格が上昇したことになります。
特に北海道内では、札幌中心部の再開発、千歳市におけるラピダスの建設、北海道新幹線の札幌延伸工事などが複合的に影響し、建築資材の不足が深刻化しています。あるハウスメーカー(アートホーム)の例では、10年前に比べて規格住宅の建設コストが1.5割から2割ほど高騰しており、さらに土地代の高騰も重くのしかかっています。
こうした価格上昇によって、従来の35年ローンで組むと、毎月の返済額が大きくなりすぎてしまい、家計を圧迫するリスクが高まります。
住宅購入希望者の「リアルな声」と動向
住宅価格が上がり、毎月の返済額が大きくなる中で、購入希望者が重視するのは「月々の負担を抑えること」です。
実際に新築戸建てを検討している30代の購入希望者からは、「35年だと月の返済額がちょっと増えちゃうかな」といった声が上がっています。また、「できれば、40年とか長い期間払い続けるのに、無理なく払える額で考えている」という意見もあり、長期化によって月々の返済額を調整したいという強いニーズが明らかになっています。
このニーズに対応するため、公的な住宅ローンである「フラット35」を取り扱う住宅金融支援機構も、返済期間が50年の「フラット50」**4.4倍に増加**していることが示されており、市場における長期ローンの関心度の高さがうかがえます。住宅金融支援機構の関係者も、住宅価格の上昇に伴い、毎月の返済額を抑えたい層が増加していると分析しています。
金融機関と住宅業界の戦略
金融機関は、住宅ローンの長期化を顧客獲得のチャンスと捉えています。
札幌市に本店を置く北洋銀行は、住宅金利上昇と価格高騰による住宅市況の冷え込みを防ぐため、2025年4月から新築戸建て向けの住宅ローンの返済期間を最長50年まで拡大しました(新築マンション向けは2024年4月から取り扱い)。同行の担当者によると、この商品開発は、顧客の不安を払拭し、住宅取得への意欲を喚起するために以前から検討されていたものです。
北洋銀行では、完済年齢を82歳までとしていますが、50年返済を選択した顧客は、この半年間で全体の約6%に達しており、増加傾向にあります。銀行側にとって、住宅ローンは家計のメイン取引となるため、年齢の若い顧客層を50年にわたって長期的に取り込み、同行の様々なサービスを利用してもらえるメリットが大きいとしています。
ハウスメーカーの現場でも、長期ローンの提案は常態化しつつあります。
北海道を主な営業エリアとする「アートホーム」では、購入相談者の半数以上が20代であり、彼らの多くがまず「最長何年までローンを組めるのか」を知りたいと考えているといいます。同社では、完済時の年齢条件を満たせば40年ローンの提案を行っており、特に坪単価が高い大手ハウスメーカーでは、最初から50年ローンを提案するケースもあるそうです。
さらに興味深い点として、最近では投資に対する理解が進み、あえて返済期間を延ばすことで毎月の支出を抑え、手元の資金を投資に回す顧客も増えているという、新たな資産形成の動きも見られます。
50年ローンの功罪:賢い選択のために知るべきリスク
50年ローンは、月々の返済負担を軽減する「功」がある一方で、総支払額が大幅に増えるという「罪」も併せ持ちます。
ファイナンシャルプランナーの加藤桂子さんによる試算では、一般的な金利条件で5000万円を借り入れた場合の影響が明確にされています。
<月々返済額の比較> 「フラット50」を選択した場合、従来の「フラット35」よりも月々の支払いが約3万円ほど安くなります。この軽減効果は、特に子育て中の世帯にとって、教育費を貯めながら返済を行う上で大きな助けとなります。
<総支払額の増大リスク> しかし、返済期間が長くなる分、利息の負担が増えるため、支払いの総額は「フラット35」に比べて1000万円以上増えると試算されています。
加藤FPは、この長期的な負担を踏まえ、「子供がいる世帯は教育費を貯めながら返済しないといけない」という現実を指摘するとともに、「長期間返していけるのか慎重に判断を」と警鐘を鳴らしています。
50年という超長期の返済期間は、定年退職後もローンが続く可能性を意味します。若くして住宅を取得できるメリットがある反面、将来的な収入の変動、健康状態、そして老後の生活設計も含め、慎重かつ包括的なライフプランニングが求められます。50年ローンを選ぶ際は、月々の安さに惑わされず、総支払額と長期的な返済計画を冷静に比較検討することが不可欠です。
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引用元(参考記事)
• 若者に広がる住宅ローン"50年" 建築コスト増で総返済額より毎月の支払いを重視…金融機関・購入検討者・ハウスメーカー・FP それぞれのリアル 35年返済は終焉に向かうのか
◦ 配信元:TBS NEWS DIG(北海道放送)
◦ 配信日時:2025年10月26日(日) 08:00
















